大口よしの活動記録

アクション 日々の活動から

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2005年8月1日

「これからの食育の方向」(「AFF」2005年7月号特集)

農林水産大臣政務官
大口善德さん
広島県尾道市立土堂小学校校長
陰山英男さん
女子栄養大学教授
武見ゆかりさん

農林水産省は、厚生労働省と共同で、食生活指針を実際の行動に結びつけるものとして、食事の望ましい組み合わせやおおよその量をわかりやすくイラストで示した「食事バランスガイド」を6月に公表しました。
今回はこの策定にかかわった女子栄養大学教授、武見ゆかりさんと農林水産大臣政務官・大口善德さんに、「百ます計算」や「早寝・早起き・朝ごはん」の推奨で子どもの教育に成果を挙げている広島県尾道市立土堂小学校校長・陰山英男さんをお招きして、「食育」についてお話いただきました。

武見 今日は「これからの食育の方向」というテーマでお話をうかがいたいと思います。
陰山先生は「百ます計算」で非常に有名ですが、食生活と学力には関係があるということで、早寝・早起きをすることに加え、しっかりと朝ごはんを食べることを勧めていらっしゃいます。食生活が大事だと考えられるようになった理由をお聞かせ願えますか。

陰山 前任の山口小学校にいたとき、とにかく子どもたちの学力を上げてほしいという地域の要望がありました。ところが、教壇に立って子どもたちを見ていると、何人かの子どもがぼーっとしていて、これは勉強どころじゃないなと感じました。そこで生活アンケートというものを行いました。
我々は、毎日子どもと接していますから、子どものことはわかっていると思っていたのですが、出てきたデータを見て驚きました。その地域は農村地帯で、8割が農家なんです。にもかかわらず、朝ごはんは3分の2がパン食で、その半分、ですから全体の3分の1がパンとコーヒーという結果でした。これは非常に驚きでした。
それともう一つ意外だったのは、夕ごはんを家族一緒に食べている家庭が全体の3分の1だったことです。僕が子どもの頃は、父親がでんと座って「いただきます」と言わないと、ごはんが食べられない家庭でしたから、そういう生活をどの家庭でもしているものだと勝手に錯覚していたんですよ。そこで調べてみたら生活が夜型化して、朝がしんどいからパン食ということだったんですね。ですからこれは一連のつながりで、子どもたちは元気が出ないし、勉強に取り組めない、そこがそもそもの出発点でしたね。

武見 先生は学力を上げるために、いろいろと工夫をされると同時に、食生活のような基本的な生活習慣に対しても働きかけをされているということでしょうか。

陰山 そうですね。私たちは学力を上げるためには、状況を整えようと思っていたのですが、いろいろなデータをとっているうちに、どうも逆みたいだと、つまり食べること、それからきちんと寝ることイコール学力なんだと思えてきたんですね。

武見 そうしたことは先生が思っているだけではなくて、保護者や子どもたち自身も含め、皆がそのことを理解していくことが大事だと思うのですが、いかがでしょうか。

陰山 一番最初に「こんなことでは勉強できませんよ」ということを保護者の方にお話ししたところ、とても評判悪かったですね。「自分の勉強の教え方が悪いのを食事のせいにするのか」という雰囲気でした。
でも「これじゃいけない」ということで、なんとか保護者に理解していただこうと食事と学力を関連づけるデータがないか探したんですよ。そこで見つけたのが、東京の広瀬正義先生が作られた、一食に使われる食材の数と成績との相関関係をとったグラフとか、いろいろなものを食べさせると成績が上がるというデータでした。また、食材の量によってもかなり能力差が出るんです。「これは素晴らしい」ということで全学級に配ったんです。これが非常に大反響で、その日の晩から子どもたちの食事が非常に豊かになったんです。

武見 今は国際的にもそういうデータが出てきていて、たとえばアメリカでも、家族が一緒に食事を摂ると、結果として食事内容も良好になるとか、成績との関係といった研究もみられるようになってきています。

大口 国会でも、この「ばらばら食」といいますか、家族がそれぞれ自分の好きなものを食べる家庭があるということ、つまり家庭の食卓がファミリーレストラン化しているという指摘がありました。また、「ばっかり食」といって、おかずだけ食べて最後にごはんを食べるという、そういう食べ方についても話題になりました。

武見 ある意味では子どもの嗜好に迎合してしまっていると言えるのかもしれません。
農林水産省でも食育について、いろいろな取組を進めてきており、地域の地道な活動が、いまや全国的に知られる動きになってきていますが、このことについてどのようにお考えですか。

大口 まず、学力を生活のリズムや食生活と関連づけて考えるという先生の発想はとても新鮮に感じられました。今までは学力というと教え方であるとか、勉強時間の長短との相関関係で考えられることが多かったように思います。
ところが、先生のように現実に自分のクラスや学校の子供たちの家庭を調査することによって、そういうデータが出そろい、家族の理解のもとで早寝・早起きをし、朝ごはんをきちっと食べることが学力向上につながることが実証されたということは極めて説得力があり、そのことに私は深く感銘を受けました。
農林水産省は命を支えるまさしく「食」の省ですから、平成14年から「食育」が大切であると位置付け、その推進に取り組んできました。その中で、栄養バランスに優れた「日本型食生活」の実現、農林水産業や食品産業に関する知識の普及、地域の優れた食文化の継承、食品の安全性に関する基礎的な情報の提供を大きな柱として食育を推進しています。
また、平成12年に当時の文部省、厚生省、農林水産省で「食生活指針」を作成したのですが、これがなかなか浸透しないということで、今回、一日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかを分かりやすくイラストを使って示した「食事バランスガイド」を発表させていただき
ました。そして、家庭だけではきちんとした食生活が成立しない状況になってきていることを踏まえて、食育基本法という法律もできましたので、食育をしっかりやっていきたいと思っています。

武見 今のお話の中に出てきました「食事バランスガイド」についてですが、私も策定に関わったものですから、陰山先生にぜひご意見をうかがいたいと思います。
基本は食生活指針で言ってきた「何を食べたらいいか」と同じなんです。主食、主菜、副菜、それプラス牛乳・乳製品と果物という五つの料理区分をどのくらい食べたらよいかが見てわかるというものです。ある意味アバウトだけれども、生活者のレベルでまず分かっていただくということを目指して考えたものなのです。

陰山 感覚的にはわかりやすいですよね。確かにバランスよくというのはあるのですが、量的なものは、わりと意識されることがなかったですから、例えば主菜よりも副菜の量の方が多くなっている所など、なるほどと思います。
確かにメッセージが一度に入っていて、一目でわかるというのは非常にいいですよね。

武見 教育の現場で使っていただければと思いますが、いかがでしょうか。

陰山 これは大人向けなんですか。

武見 そうですね。基本的にはまず成人向けということで厚生労働省と農林水産省とで作ったものです。しかし、家庭という単位で考えれば、お子さんもいるわけだから、行く行くは、みんなが共通に使えるツールになっていくといいなと思っています。

陰山 何でもそうですが、「あれも大事、これも大事」と言ってしまうと、結局何も覚えられないんですよね。ですからバランスよく「これ」と一つのことで示すのはものすごく良いと思います。

武見 そうですね。「食生活指針」と聞くとぴんとこない人が多いのですが、一つひとつの項目で言うと、みんながけっこう知っていることなんです。「食生活指針」という言葉自体がちょっと浸透しなかったのかもしれないです。
それと比べると、この「食事バランスガイド」は、言葉自体に何を伝えたいのかイメージがくっついているかなと思います。

陰山 家庭科の授業でよく使う栄養成分の表は、栄養で分けてあるけれども、じゃあどうやって食べるといった場合に分かりづらいですよね。「食事バランスガイド」は主食、副菜みたいな形で、要するに現実に合った形で作られているところがすごくいいと思います。

武見 そうなんです。食品の重量とか、あるいは栄養素の量で言っても目に見えなかったり、食材そのものを扱わない人たちも多いので、やはり食べる状態の料理でどのくらいかというのがわかるようにということで作成しました。

陰山 そういう意味で非常にわかりやすいですよね。だからこれを基本として頭の中に入れておいて、多い、少ないということを考えればいいわけです。

武見 そうです。この部分が拡がり過ぎたら多いね、バランスが悪くて、倒れてしまうねとか、いろいろな使い方ができるようになっています。行く行くは、学校教育の中にもきちんと入れていただくことが、大事なことだと思います。

陰山 そう思いますよ。どうしても栄養学的にといってしまうと、いかにもお勉強的になってしまうので、自分たちの生活の中で活かせるものというのは、より実践的でいいと思います。

武見 これを一つの共通なイメージとして、いろいろなところで、食育が展開されればと考えています。

大口 例えば上から主食、副菜、主菜というのを3色に分けて、実際に食品を選ぶときに3色きちんと揃っているかというような目安にしてもらえたらいいと思います。実際に店舗で具体的な表示などを行う実証事業を実施し、活用マニュアルを作成する予定です。この実証事業をもとに、コンビニエンスストアやスーパーマーケットといった小売店にポスターを掲示したり、パンフレットを作ったり、外食におけるメニューに掲載するなど、食品産業における活用を促していきたいと考えています。

武見 地域産物のこととか、旬とか、いろいろな学習にも使える形だと思います。

大口 これは基準が明確になっていますので、この基準に当てはめて地域に合った料理を入れていただくと、地産地消という面でも活用できると思いますし、むしろ、活用していただきたいと思います。いずれにしろ、全国で説明会を行い浸透させていきたいと思います。

武見 「いろいろなところで目にするね」という感じで、まずはこのコマのイラストを頭にインプットしていただくといいんじゃないかなという思いもあるんです。
さて次に、食育基本法のことについてお話を伺いましょう。私たちのように食生活の改善を主に行っている立場から言いますと、今の世の中の動きは心強く、ここでがんばらなければいけないなという気持ちです。では食育基本法の内容について、大口政務官からご説明お願いできますか。

大口 食育基本法は6月10日に成立し、7月15日に施行されました。
その理念は、食育を生きる上での基本であって、知育、徳育および体育の基礎となるべきものと位置付けています。食べるということは、まさしく命を育むことですから、命の基本、基礎という位置付けをしています。
そして食の知識の普及、食を選択する能力を習得し、あらゆる世代の国民に健全な食生活を実践していただき、人間を育てる食育を推進していくことを目的としています。特に子どもにつきましては、食育というのは心身の成長や人格の形成ということに非常に大きな影響を及ぼしますので、小さいときから生涯にわたってしっかり食育をやっていこうということです。
具体的には、国、地方公共団体にとどまらず、教育関係者、農林漁業者、食品事業者、国民の責務を明らかにしています。基本的な施策として、まず家庭でしっかりとしつけなどはやっていただく。ただ、今はいろいろな社会的な変化もありますので、学校、保育所など、地域社会における食育の推進を図っていくこと、生産者と消費者との交流の促進や地域で生産された農林水産物を学校給食に利用すること、食文化継承を推進することなどを行うこととされています。
また、これまで個別に行なっていた食育の取組を、国や自治体だけではなく、関係者も含めて一緒になってやっていきましょうということで、小泉総理大臣を会長とする食育推進会議を内閣府に設けることになっています。そこで、食育推進基本計画を策定することとしています。これにより国民運動として食育を推進していこうという法律です。

武見 このような法律ができる一方では学校教育の中の、ゆとり教育や総合的な学習について、いろいろな議論が出てきています。学校での食に関する指導はどういう方向にいく可能性があるのか、どうすべきか、陰山先生のご意見を聞かせていただけますか。

陰山 振り返ってみると担任時代も、私は食の問題というのは結構重視していたような気がするんですよ。まず一つは、自分自身が成長していくときに、やはり食べるということがすべての基本であるということです。ですから、家庭科では、授業の半分以上は調理実習を行いました。絶対的に栄養価が高くて、なおかつおいしくなければいけないという哲学でやっていました。
また、我々の食べるものは日本で作るというのがあくまでも基本だとは思いますが、たとえば輸入される食品についても知っておかなければいけないと思い、それを授業に取り入れたりもしました。

武見 学校の中でも食に関する学習ということで、いろいろな工夫をされていたんですね。そうすると担当される先生方の意識というのが大事になりますね。

陰山 確かにそこは難しいと思います。結局、今は日本人自体が「幸せって何?」と言ったときに、「健康であること」という、ごく当たり前のことを忘れていると思うんです。そういう点では食育基本法ができるのも不思議ですよね、食べることを法律で決めなきゃいけないというのはね……。それほどに今私たち自身が考え直さなければならないんだということで、国会からこういう法律が出てきたということは意義深いと思います。

武見 そうですね。今後、行政としていろいろな取組を積極的に推進してくださるという方向なんですよね。

大口 今後、食育推進基本計画を策定することになるわけですけれども、骨太の方針2005の中でもしっかりと食育を推進していくことになっています。2004年から内閣としても意識を持って、国民運動として推進してきています。農林水産省としては地域の農家の方々、あるいは地域の食文化をよくご存じの方に食育推進ボランティアをお願いしています。3万人ぐらいいらっしゃいます。こういう方に講師になっていただいて、地域で活動していただく取組をしています。
また、農林水産業の方々と消費者の方々、子どもたちが語り合って、触れ合って、そしていろいろなことを理解する。こういう都市と農山漁村の共生・対流活動は、今後もしっかりやっていきたいと思っています。
今の子どもたちは、自ら体験することが少なくなってきているように思います。実体験がないままいろいろなものを教科書などで読ん
でも、理解しにくいのではと思うんです。そういう点で農林水産省として、そういう子どもたちや消費者の方に農林水産業の現場を知っていただき、それに従事する人々と触れ合っていただき、そこで体験を共有していただくということが大事だと思っています。また、一方で食料自給率の問題がありますね。

陰山 これが一番問題ですよね。

大口 今、自給率はカロリーベースで40%なので、これを平成27年度になんとか45%に上げたいと考えています。
そのためには、食育の一環として、農林水産業に携る方々と触れ合う中で、国産食料について、その安全について理解してもらうということが大事ではないかと思っています。

武見 ありがとうございます。先ほど、国会としてそういう方向を出すことは意義深いとおっしゃいましたが、今後子どもたちの食育を推進していくために、国や行政としてのサポートで、もっとこういうことを行えばということが具体的にありましたら、お聞かせいただけますか。

陰山 こういう法律ができたことによって、これが一種のスタンダードになりますよね。おそらくひと昔前だったら、親が朝ごはんを食べさせるのはある面当たり前だったじゃないですか。今それが崩れてきたと思うんですよね。いわゆる常識の崩れみたいなものが生命の崩れにつながってきていると思うわけです。ですからそういう点で、これは絶対的に必要なものだということをきちんと出していただいて、食事に注意するとか、あるいは意識的に食べるとかということがスタンダードになっていく、一つの文化になっていければ良いと思います。

武見 やはり食を大事にするということなんでしょうね。食は生活の基本であるということが食育基本法でも触れられていますが。

陰山 みんなの意識が自然にそちらに向くようになってくれれば、私たちとしては、ある面、余計なことを言わずに、すっとそういう指導に入っていけるのです。今だったら「朝ごはんがいかに大事か」みたいなことを、喧々諤々やらなければいけない。そういう点では、ちょうど良いタイミングではなかったかという気がします。

大口 まさに陰山先生がおっしゃられるとおり、今こそ国民の意識改革が重要だと考えています。食事の取り方まで法律で決めるのかという意見もあるでしょうが、食生活の乱れは生活習慣病の増加を呼び、ひいては医療費の増大という財政負担の問題につながります。その意味で、食育を法律に位置づけ、政府を挙げて国民の食生活改善に取り組む時期に来ていると思っています。

武見 今日は食育ということについていろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
食育基本法についてさきほど、省庁をこえて取り組むとおっしゃられました。今までですと、どうしても学校のことは学校で、地域に出ると保健所・保健センターでとか、そういう縦割的な部分もあったことが、みんなが「食は基本、食は大事」ということを考えていく一つのきっかけができたのではないかと思います。それを具体的に推進するということで、いろいろな取組を考えてくださっていることを、ぜひ実現していいただけますようお願いします。

大口 しっかりやっていきます。

武見 今日はお忙しいところどうもありがとうございました。

(以上、「AFF」2005年7月号より(財)農林統計協会の許可を得て転載)

「AFF」2005年7月号

 

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